2002/10/10 日本総合研究所 研究事業本部 人事戦略クラスター
第1回「コスト構造の変化に対応した人事管理の多様化」
多様化する人材とは何か
最近の人事管理において、雇用の多様化、正社員区分の多様化等が急速に進んでいる。前者においては、いわゆるITベンチャー企業が典型だが、社員身分として以下の種類がある。
- 正社員
- 契約社員(職種によりさらに細かい種類あり。高度専門職系、事務系職種や営業系職種等)
- 嘱託社員(高齢者や定年後再雇用社員)
- パート
- アルバイト
これらの違いは、契約上の雇用の長さ(終身雇用、3年等中期雇用、1年、半年、月単位、日単位等)、給与の支給形態(年俸、月給、日給月給、日給、時給等)、職務の種類(専門業務、単純定型業務等)、社員保険適用の有無等による。その他、社員ではないが、派遣労働も増えている。
後者の正社員区分の多様化だが、以下のものが挙げられる。
- 管理職層 :管理職、専門職、専任職、役職定年者等シニア職
- 非管理職層:総合職、事務職等雇用機会均等法制定時にできた区分、総合職を事務・技術、製造等に分ける職種・職務別の区分、全国区、地方区等勤務場所別区分
正社員の違いは、職務・能力の種類、給与の支給形態(年俸、月給)、転勤の制限等による。これらの社員区分の違いを正確に理解することがまず必要である。
多様化人材マネジメントの背景と問題
これらの多様な人材活用を始めた大きな理由は、長らく不況や経済の成熟化を反映した人件費の合理化、専門職等多様な人材の必要性等であり、経営側のニーズが高い。但し、職場では、まだ慣れておらず、以下の種々の問題がでている。
- 契約、パート社員等の増加問題:現場の職制が非正社員を正社員のようにマネジメントしてしまう。同じ職務をやらせて、残業もさせる等をやっているケースが多い。しかし賞与はないか、少ない、退職金、福利厚生も違うとなると大きな不満を誘発する。
- 正社員の複線化:上記と同じだができる事務職に総合職の仕事をやらせてしまう職制の不慣れ。社員側では同じ年次の正社員で、職務・能力区分が違って給与が違うことが理解できず不満に思う。
これらの問題は、新しいマネジメントへの移行過程の問題でもある。
第2回「多様性を含む人事制度の構築――複線型人事制度」
複線型人事制度とは
複線型人事制度とは、年功主義、職能資格制度等全社共通の単一人事制度とは違い、正社員において、複数の枠組みのなかで、それぞれに適した評価・育成・処遇を行う仕組みである。同時に非正社員も今後は大きな戦力となり多様な雇用形態が並立することになる。
複線各枠組み設定の留意点
基本的には、上記縦、横軸の各要素で設定するが、その他、総額人件費の観点から、正社員と非正社員割合、社内外労働市場需給、異動の有無・範囲、業績反映度(賃金がハイリスク・ハイリターン等)も配慮する。および縦軸の等級数は各枠組み別に設定する。最近は等級数を少なくする=ブロードバンド化が多い。また枠組み内昇進・昇格、枠組み変更等のルールも決め、経営サイドの判断だけでなく、社員がその意思・適性に応じて移れるようにするのも重要である。及び職場労務管理上、以下の内容を職制に教育することも必要である。・各枠組み(職群、人材群、他)の定義 ・職務割り当ては左記定義を守る ・枠組みの違いは、職務や能力の違いで、人間の偉さと無縁であること ・部下に枠組み転換の挑戦をさせる。
第3回「コア人材と非コア人材」
コア人材が注目される背景
日本企業は、内外企業との激しい競争において、絶えざるイノベーションとコスト削減が求められており、経営環境は今までになく厳しいものとなっている。
また、早い時代の流れの中で、従来のビジネスの枠組みを絶えず問い直していかなければならない。
このような中で、特定の人材やグループが持つ技術やノウハウといったものが見えざる資産、即ち企業の競争力の源泉として注目されつつある。
正社員/非正社員という区分の限界
これまでの人事制度においては、正社員/非正社員という分け方が基本であった。従来型ビジネスモデルを維持・拡大していくという考え方にあっては、これで十分であったかも知れない。しかし、上記のような経営環境においては、単に正社員をコア人材と言ってこれまで通り一律に扱うだけでは、本当の意味での付加価値を生み出す人材を処遇しきれなくなってしまう。最近よく耳にするように、(正社員は)ヒト余りである一方で、『人材』不足という状態になってしまうのである。
コア人材の捉え方
企業にとってどのような人材が付加価値を生んでいるのか、あるいはこれから生むのか。今一度、事業戦略の観点から人材を見直す必要がある。競争に勝つための付加価値を生み出す人材を如何に選び、育成し、活用するかが人事戦略においてはクリティカルになっている。
その企業において創造性が競争優位の源泉である場合もあれば、オペレーションシステムの構築が源泉である場合もあろう。また、経営者人材や企業を管理・運営していくスタッフも長い目で育てていかなければならない。コア人材を単に「正社員」と一括りにするのではなく、もっと細分化して定義していかなければならないのである。
職群・人材群の組み立て
例えば、一流の研究者を昇進させて現場から離れた管理職に、という単線型処遇がナンセンスになってきていることは誰しも納得できるだろう。人材が生み出す価値に従って枠組みを設定すると、処遇のあり方も変わってくる。
事業を展開していく中で求められる役割や必要とされる能力をベースにして、どのようなレンジでどのような成果を求めるのかという、成長と活用のストーリーを作り込み、複数の人材群からなる人材フレームに落とし込んでいくのが最初のステップである。
このストーリー作成の中で、企業がどのような人材を欲しいのかというメッセージが明確になる。市場価値の高い社員などにとっては、そのメッセージ自体が会社に留まるのかどうかの決め手になろう。会社も選ばれる時代になってきているのである。
非コア人材について
顧客満足を考えた場合、お客様との接点としてパート・アルバイト社員が大きな役割を担う。
これまで非コア人材として、単にコスト面だけで捉えられていた非正社員であるが、抜本的にコスト構造の転換が求められる中で、むしろ戦力化を図ることが企業の競争優位に繋がると気が付き始めた企業も多い。そして、このことは同時に、正社員及びコア人材のあり方を問い直すことにも繋がる大きな問題を孕んでいる。
第4回「専門職の処遇(1)」
専門職が注目される背景
10年ほど前に専門職制度が注目されたことがあったが、その後下火になり、最近再び専門職が注目されている。ただ、同じ専門職でも、実は中身が大きく変わってきていることを認識しなければならない。
かつての専門職制度は、価値観の多様化に対応し、社員の専門性を活用する狙いで導入された。しかし、社員にとってはラインから外れるというマイナスイメージが強すぎ、優秀なエキスパートが専門職を選択せず、会社が意図した程には運用されなかったというのが実情であった。総合職すなわち本流というイメージが強すぎて、制度設計する側も専門職に対してそれほど魅力的な処遇制度を用意できなかったということもある。
これに対して、最近の専門職制度は「高度プロフェッショナル」とでも言うべき人材を処遇するために導入されているケースが多い。企業の競争力を高める人材というのは、単に正社員という単線ではなく、事業のコアを支える人材として多様に捉えるべきであり、その複線型人事管理の大きな柱が専門職なのである。
また、高度専門職を中心に労働市場の流動化が進んできているということも背景にある。コア人材を全て自社内での育成でまかなうことにこだわると、環境変化のスピードについていけなくなってくるのである。
専門職として処遇すべき職種については、企業によって様々で良いと考えられる。むしろ、この定義にこそ企業の人材戦略が現れるのである。一方、アウトソーシングとの関連からも考えなければならない。人材の希少性は高いものの、社内に人材を抱える必要のない部分は、むしろアウトソーシングした方が割に合う。
専門職の位置付け
かつての専門職は「エキスパート=○○しかできない人材」という位置付けだったが、これからの専門職は「高度プロフェッショナル=特定の専門分野について、その人ならではの価値を創出できる人材」と捉えるべきである。位置付けとしては、総合職に対して上でも下でもない、完全に独立した体系であるとする必要がある。
専門職には、どれだけ自らの才能によって高い価値を創出するかが問われ、管理職には、これらの専門職の才能を如何に発揮させて業績を上げるかということが問われている。目的は同じように見えても、その行動論理は大きく異なっているのである。
導入方法
どちらかと言えば、社外から人材を集めてくる為の受け皿を作るという形が通常の導入方法となるが、社内公募も同時に実施して社内の人材を発掘することも考えられる。
ただ、気をつけなければならないのは、専門職の価値を分かる人材がいなければ、制度を導入しても上手く活用はできないであろうし、そもそも有能な人材は集まらないのである。
経験がないことから、専門職の育て方・活かし方に疎い人事部・ライン長が多いようである。導入にあたっては、専門分野の動向に関する知識だけでなく、高度プロフェッショナルとしての専門職のイメージをしっかりと持っておく必要がある。
第5回「専門職の処遇(2)」
専門職の処遇
高度専門職の処遇を考えるにあたっては、まずかれらのモチベーションの源泉がどこにあるかということを踏まえる必要がある。
意外に誤解している人事部が多いが、彼らのモチベーションの源泉は金銭ではなく、「仕事の面白さ」であることが殆どである。加えて、その仕事をやっていく環境に敏感である。例えば、どのような裁量を与えられるのか、周りに刺激を受けるような人材がいるのか、プロフェッショナルとしての動き方を尊重してくれる職場なのか等々である。マーケットでは驚くほどの報酬を提示されるような人材が、権限もあり、刺激的なポジションであるからということで意外なほど低い給与で働いているケースも多い。
総合職のように、能力の向上に従って資格が上がり、それに伴って給与も徐々に上がっていくという形を中心とした処遇の設計は、専門職にとっても会社にとってもそれほどメリットは無い。むしろ、「こういうことが出来るようになれば、次にこういうレベルの仕事にチャレンジしてもらうことを期待している・・・」というように、専門性を高める手段として「仕事」を捉え、仕事のレベル・幅を軸としたキャリア設計を行い提示していく必要がある。
専門職の給与
前回述べたように、専門職の給与体系と総合職の給与体系は、上下関係で捉えるのではなく、全く別のものと捉えなければならない。給与の設計に関しては、「○○年次扱いにしよう」とか「一般社員テーブルの○○%アップ」などと、総合職の給与レベルから議論をスタートさせると、中途採用で取りたい人材はレベルがマッチせず、社内の人材を登用していく場合にも、その人材を活かしきれなかったり、転職してしまうリスクを負うことになる。
専門職にとっての年俸というのは、その会社が自分の価値をどう見ているかのメルクマールである。まず見なければならないのは、社内の給与序列ではなく、市場の価格なのである。求めているスペックと給与条件に関しては、事前にマーケットの情報を十分に集め、社内の考え方を整理しておく必要があろう。
留意点
時代の先端を行くような専門性には「旬」がある。また、本人の才能によって成長が頭打ちになるケースも多い。更には、見込み違いのケースも多々ある。その点からは、総合職の職能資格・ポジションや給与のように下支えや保証があるという扱いではなく、年俸の中での変動部分を大きく取り、専門性のレベル次第で頭打ちや場合によっては下げることもありうるという制度にすべきである。
こういったプロフェッショナルを戦略的に活用するノウハウに関しては外資系企業のほうに一日の長があり、専門性の高い人材は外資系企業に流れることが多いのも現実である。高い専門性をもって競争力を高めていくために、日本企業の意識改革が求められる所である。
第6回「多様な人材像に応じた人事管理の考え方――事務職」
事務定型的職務を担当する職務層をここでは事務職として定義しておくと、この職務層の位置付けは大きく変貌を遂げた。
◆事務層を取り巻く環境変化
職務そのものは電算化によるメリットを生みやすく、規模は別にしても常に事務合理化の対象となりやすかった。企業活動の付加価値を生むプロセスからは遥かに遠く、基本的に、純粋なコスト要因であると考えている企業は少なくない。
パートや派遣社員による正社員の代替は珍しくないし、別会社化やアウトソーシングにより業務そのものを外部化することも選択肢として用意されている。
このような環境下にあって、いわゆる事務定型的職務を担当する職務層の人事管理は以下のようなポイントがある。
◆要請される賃金カーブの形
同じ事務処理を主体とする層の中には、対外折衝や企画問題解決を行う職務層がある。第一に、事務定型職務層とこの折衝・企画職務層を明確に分けることが必要である。そして、事務定型職務層の賃金カーブの傾きは相対的に小さく、査定幅は小さく、成果型の考課制度もなじみにくい。ノーリスク・ノーリターン型の人事管理とも言いかえられ、賃金検討の際には、パート・派遣・アウトソーシングのコストを参照することになる。
◆特に大量事務が発生する場合には
第二に、大量の定型的事務処理が生じる企業の場合は、事務処理のまとめ役をする監督層的ポジション(管理職でない)を置くことが考えられる。
事務処理は迅速・正確が強く要請されるから、長年の経験者の立場で複雑定型的な事務処理を詳細にチェックするポジションである。
但し、事務処理システムが十分機能していれば、事務処理のベテランでなければ分からない領域は次第に少なくなる。
◆情報提供する社員の評価
比較的定型的な事務処理を主体とする職務層は、今後も電算化や外部人的資源の活用や外部化の流れに益々晒される。しかしその中にあっても、営業・技術へ役立つ形で情報を集約するヒントは、担当事務処理層がもっている可能性は高い。有用な情報提供を可能にする制度とその努力をする事務処理担当者をきちんと評価する視点を忘れてはならない。
第6回「多様な人材像に応じた人事管理の考え方――事務職」
事務定型的職務を担当する職務層をここでは事務職として定義しておくと、この職務層の位置付けは大きく変貌を遂げた。
◆事務層を取り巻く環境変化
職務そのものは電算化によるメリットを生みやすく、規模は別にしても常に事務合理化の対象となりやすかった。企業活動の付加価値を生むプロセスからは遥かに遠く、基本的に、純粋なコスト要因であると考えている企業は少なくない。パートや派遣社員による正社員の代替は珍しくないし、別会社化やアウトソーシングにより業務そのものを外部化することも選択肢として用意されている。このような環境下にあって、いわゆる事務定型的職務を担当する職務層の人事管理は以下のようなポイントがある。
◆要請される賃金カーブの形
同じ事務処理を主体とする層の中には、対外折衝や企画問題解決を行う職務層がある。第一に、事務定型職務層とこの折衝・企画職務層を明確に分けることが必要である。そして、事務定型職務層の賃金カーブの傾きは相対的に小さく、査定幅は小さく、成果型の考課制度もなじみにくい。ノーリスク・ノーリターン型の人事管理とも言いかえられ、賃金検討の際には、パート・派遣・アウトソーシングのコストを参照することになる。
◆特に大量事務が発生する場合には
第二に、大量の定型的事務処理が生じる企業の場合は、事務処理のまとめ役をする監督層的ポジション(管理職でない)を置くことが考えられる。事務処理は迅速・正確が強く要請されるから、長年の経験者の立場で複雑定型的な事務処理を詳細にチェックするポジションである。但し、事務処理システムが十分機能していれば、事務処理のベテランでなければ分からない領域は次第に少なくなる。
◆情報提供する社員の評価
比較的定型的な事務処理を主体とする職務層は、今後も電算化や外部人的資源の活用や外部化の流れに益々晒される。しかしその中にあっても、営業・技術へ役立つ形で情報を集約するヒントは、担当事務処理層がもっている可能性は高い。有用な情報提供を可能にする制度とその努力をする事務処理担当者をきちんと評価する視点を忘れてはならない。
第7回「多様な人材像に応じた人事管理の考え方――勤務地限定社員」
勤務地限定制度は、全国社員、地域ブロック、勤務地限定というコース別雇用管理の一環として設定されることが多い。
◆背景には「社員」と「企業」双方のニーズがある
長らく育った"地元"を離れることは、これまで形成してきた暮らしをはじめ、子供の教育環境、親の扶養、持ち家、友人等を中断ないし失うことになり、これらに大きな価値を置く社員にとり、勤務地を地元に限定することは職業生活を送るための大前提となる。
一方、東京・大阪等の大都市に本社があり地方に事業所を抱える企業にとって、生計費や人件費の著しい地域格差は人件費抑制の観点から看過できない。さらに、勤務地の異動を受け入れる者と拒否する者が同一処遇であっては、人事管理の公正さを欠く懸念も生じる。
このような、社員と経営側の双方のニーズを調和させる中に、勤務地限定制度のニーズが出てくる。
◆双方の本音や勤務地限定制度のデメリットも見落とせない
勤務を地方の一地域に限定すれば、多様な職務経験を積むチャンスは限られるから人材育成のチャンスは少なくなる。勤務先の顔ぶれも限られるから相互に切磋琢磨する刺激も乏しく職場の活力も低下しやすい。また勤務地限定と引き替えに、勤務地「非」限定社員との比較で納得のいかない処遇ダウンでは優秀な社員ほどモラールは上がらない。
地域間異動に制約されず、必要な時機に適切な異動を行い、組織活性化と経営効率向上が経営側のもう一つの本音ではあるが、この制度では思うようにできなくなる。そこで、全国、地域ブロック、勤務地限定の各コースの適正構成率やコストシミュレーションを十分に行い、それをベースに、望ましい状態に誘導する具体的制度設計や施策の検討が議論のスタートとなる。かつ具体的制度設計に当たっては、非限定者の給与水準に対し、勤務地限定選択者にどの程度の格差を設けるかが最大論点になろう。
◆限定勤務地制導入の検討ポイント
賃金の格差反映が地域手当(住宅手当も含める)レベルで収められないと、基本給レベルでの構造的格差設定がテーマとなる。仮に、地域別年齢給を作るのであるなら、複数の勤務地を適正に組み合わせて一つの地域別給の適用単位にする。地域別の標準生計費等を使えば大枠の地域格差はつけられる。しかし、勤務地非限定者(全国コース)は、勤務地異動への不安と異動にともなう精神的負担があるから(実費ベースは別途補填)、その分も織り込まないと納得性はない。生活コスト要因だけでの賃金格差の説明は困難である。また、昇格・昇進の上限規制を設けるかも検討される。一般的には勤務地限定者に初級管理職まで昇進可能にするケースが多い。
人事管理方針を労使双方で再確認し、それを踏まえ、納得のいく社内論議を地道に積み重ねていくことになる。
第8回「パート・アルバイト(1)」
企業間競争の中で顧客サービスや製品品質に直接影響力をもつパート・アルバイトについては、今後コスト的側面に加え、人材競争力向上・人材戦力化を目指して進める必要がある。そこで、今回はパート・アルバイトの雇用区分を整理するとともに、採用、教育訓練、配置・役職任用等の受入体制について解説する。さらに、次回「パート・アルバイト(2)」中で、役割・成果主義時代におけるパート・アルバイトの賃金・評価の方法について解説する。
◆処遇方針の明確化と雇用形態の区分
今後パート・アルバイトの基幹業務への活用がすすむことから、求人側の要求だけではなく、求職側の「働き方や労働観」に配慮した処遇方針の明確化と雇用形態の転換ルールの明示が必要である。例えば販売や営業職において個人貢献度を数値として明らかにできる場合は成果主義に基づく数値業績に応じた正社員と同等レベルの販売奨励金、業績賞与の支給を行うべきものと考えられる。
又、雇用形態については以下の例として示されるが、本人の意志・適性・能力・実績を評価の仕組みとして定期的に集約し、「パートから契約社員」、「契約社員から正社員」への転換をすすめることが、組織の活性化や従業員の動機づけからも有効と考えられる。
(1)短時間パート・アルバイト:短時間勤務者(年収上の制約あり)、時給制、雇用期間3ヶ月
(2)常用パート:正社員と同等の業務に従事し、正社員より相対的に勤務時間が短い者、時給制、雇用期間6ヶ月、業績賞与・役職任用あり
(3)契約社員:正社員と同等の業務・勤務時間に従事し、事業所勤務について転居を伴う人事異動がない者、日給月給制、雇用期間1年、業績賞与・役職任用あり
(4)正社員:組織におけるコア人材(役職者含む)及びその候補者、月給制(又は年俸制)、無期雇用
◆要員計画と受入体制の確立
どんな人材が何人位必要なのか、今後組織で求められる仕事別・人材タイプの質と量を明らかにし採用基準として明文化するとともに、入社数/退社数の予測に基づく全社年間募集計画を設定する必要がある。さらに、採用後の定着率を高め円滑な運用が求められることから、募集窓口責任者を定めるとともに、募集者への応対や試験・面接、入社手続き・説明事項等の受入体制の手順・方法・ツール(面接評定表、採用通知書、雇用契約等)について、マニュアルとして整備しておく必要がある。
◆導入教育の仕組みの確立
自社方針の周知徹底や仕事別の基本業務の早期習得が必要であることから、1〜2週間程度の導入教育プログラムを設定するとともに、職場毎の育成責任者による指示・確認・フォロー・検証の仕組みを確立することが重要となる。カリキュラムの概要は(1)自社の経営理念・方針、(2)職種別業務の基本手順・手続きと方法、(3)就業規則・職場ルール等から構成される。
◆役職任用や配置転換による組織対応力の強化
管理能力や専門性に秀でたパート・アルバイトを積極的に役職任用することが、組織対応力の向上や競争意識の醸成に有効であることから、監督者クラスや特定分野の専門職への抜擢をすすめるとともに、定期的な職種転換や部門変更を行い組織・人材の活性化を行うことが重要と考えられる。
第9回「パート・アルバイトの賃金と評価(2)」
今回は、役割・成果主義時代におけるパート・アルバイトの賃金・評価のあり方について解説する。
■賃金決定の要素
パート・アルバイトの賃金は、地域相場に仕事別の価値、曜日・時間帯毎の採用難易度(需給動向)、役割遂行度・業績等を加味し決定すべきである。具体的には以下の例に示すが、各要素毎の根拠を明らかにしておく必要がある。
◆地域別基本
時給 :地域毎の最低保障部分(初任)の時給
◆業績加給
:期間毎の役割遂行度・業績により昇給する部分(評価によっては減給もある)
◆職務加給
:各職務において、職務価値の異なる場合の付加や忌避傾向の強い職務に加算する部分
◆曜日・時間
帯別加給
:繁忙時間帯でかつ一般的に忌避傾向が強い場合、例えば小売業において土日・祭日や平日の夕方以降の勤務時間帯について、他の時間帯より加算する部分
◆役職手当
:担当部門・分野の責任者としての役割に報いる部分
■昇給と賞与配分
従来のパート・アルバイト管理は、組織の和を重視する上から賃金について顕著な格差をためらう傾向も見られたが、今後は勤続や年齢要素を払拭し役割遂行度・業績を中心とした昇給をすすめるべきである。一定の期間において役割遂行度や業績が未達成の場合は、前述の「業績加給」部分をゼロ又は減給とすべきである。又、賞与を支給する場合は、実態に合った正しい格差をつけることが社員の動機づけに役立つものとなる。
■評価要素と運用
事業や職種の特性によって内容は異なるが以下の評価要素からの検討が有効と考えられる。
◆職種別役割遂行度
:職種毎に会社が求める役割について確認をするもので基準は行動レベルで示すことが重要となる。
小売業・販売職の例:「イベント・季節に対応した売場展開(レイアウト、棚割り、エンド展開、フェイスの拡大・縮小等)を行なっていたか」
◆基本姿勢(情意)
:仕事への取り組み姿勢・意欲(規律性、責任性、協調性、積極性)を確認するもの。
例:「関連組織の役割の理解に基づき、チームワークにプラスになる行動を取っていたか」
◆業績
:担当部門の目標数値の達成度や業務に関する提案やその推進について確認するもの。
責任範囲が明らかであり、目標数値の設定に一定の納得性がある場合は個人業績として評価全体のウエイトを大きくできるが、プロセスと結果に関連が薄い場合はウエイトを一定にとどめるか、チーム業績として組み込むことが現実的と考えられる。
第10回「製造業における人事管理上の課題」
日本の製造業の現状
大手電機メーカーの労働組合でつくる電機連合は、昨年に続き今春闘も雇用維持を再優先課題とし、ベース・アップ要求をしないことを決定するなど厳しい経営状況が伺える。大手電機メーカーに限らず、日本の多くの製造業は、グローバル化・成熟化した市場で国際的な価格競争に直面し、同時に高コスト構造の問題に頭を悩ませている。
これまでの人事管理と課題
この高コスト構造の問題は、これまで多くの製造業において、高度成長期に発達した年功主義・職能資格制度を軸とした全社共通の単一型人事制度と深く関係していると見られる。この年功主義的な全社単一管理は、社員の一体感醸成やコミュニケーション促進、しいてはQCサークル等の小集団活動や「改善」にも大きく貢献し、高度成長期における日本の製造業台頭の原動力となったと言えるだろう。しかしながら今日、バブル崩壊後の長期不況に突入したことにより、右肩上がりに毎年増加し続ける人件費が利益を圧迫するようになり、この人件費の合理化が早急に解決すべき経営課題となっている。
職種別賃金管理制度への移行
人件費の合理化が急務となっている製造業では、製造職のみならず、営業、事務、SE(システム・エンジニア)等の多種多様な職種の人材を管理していく必要がある。このため、これまでの全社単一管理とは異なり、正社員において、複数の職種の枠組み(大きな仕事区分)の中で、それぞれに適した評価・育成・処遇を行う職種別賃金管理制度への移行が一つの改革方法として考えられる。具体的には、非生産部門の(1)スタッフ職群(事務、企画等)、(2)営業職群、そして生産部門の(3)製造職群(生産ライン)の大きく3つ程度の職種区分が想定され、非生産部門の職種に関しては、市場価値を配慮した年俸型賃金への移行、そして生産部門の職種に関しては若干の年功的要素を残しつつも能力給重視の賃金制度への移行が、それぞれ合理化へ向けた見直しの方向性と考えられる(詳細は下記表参照)。
| 部 門 |
非生産部門 |
生産部門 |
| 職 群 |
スタッフ職
(企画、事務等)
|
営業職 |
製造職
(生産ライン)
|
| 見直しの方向性 |
年俸型へ |
能力給重視へ
(若干の年功的要素を残す) |
| 等級数 |
ブロードバンド化により削減 |
現状の等級数維持 |
| 年齢給 |
廃止
(能力給へ再配分)
|
若干の年齢給維持
(昇格昇給への再配分)
|
| 定期昇給 |
若干残す程度で実施
(若年層のみ)
|
現状より抑え目で実施
(若年層のみ)
|
| 昇給時の査定反映 |
大き目に拡大 |
小さ目を維持 |
| 昇格昇給幅 |
現状より拡大 |
賞与への
業績反映度合い
|
中 |
強 |
弱 |
人材マネジメントの
ポイント
|
専門性の強化 |
成果・実績本位
|
技術・知識伝承と後継者の計画的育成 |
社内公募制度・社内FA制度の導入
職種別賃金管理制度では、職種ごとに枠組みを設けることから、社員側の職種に関する希望と選択を制限してしまいモラール・ダウンにつながる可能性がある。また異動をさせないとすると育成機会が制限され問題が多い。このため、職種別賃金管理制度を導入する場合には、社員の職種を完全に固定するのではなく、希望・能力があれば異動することができる社内公募制度や社内FA(フリー・エージェント)制度の導入も合わせて検討することが必要である。
第11回「流通・小売業における人事管理上の課題」
◆多様化・戦力化する非正規社員
流通・小売業は厳しい消費環境の中、未曾有の変革期にある。オペレーションコストの低減目的から始まった正社員の非正規社員への代替化は、パートタイマーを中心とする非正社員が重要なコア戦力となるほど定着・発展している。実力主義処遇のもと、パートのまま店長登用の道も開かれている制度も外食産業では今や、珍しくもない。このように、流通・小売業では正社員、嘱託・契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態の違いによる重層(序列)構造は大きく崩壊しつつあり、アルバイトと店長が商品政策を検討する企業まで見られる。
◆プロのマネージャー育成が重要課題に
このような状況においては、これまで10回にわたり解説してきた人材マネジメント課題がことごとく検討されなければならないが、これまでの流通・小売業のコンサルティング事例を踏まえて、重要な課題をさらに一つ指摘したい。
それは管理職層、とりわけ店長の役割の変質である。家電量販店を例にとると、従来、ターミナルに配置した150坪規模の店長は数人の正社員の「筆頭売り子」であり、販売戦略は本部にすべて集中したチェーンオペレーションにビジネスモデルの強みがあった。
しかし、加速する店舗のスクラップアンドビルドの結果、その数倍の売り場面積を持つ郊外型店舗が今や常態化した。店舗規模の拡大に伴って増大した部下、しかも年齢も労働観も異なる正規社員・非正規社員の混成部隊を統率するためには、店長はマネジメントのプロでなければつとまらない。ベテラン店長を異動させても使えるとは限らないのである。ある企業では、年功的な職能資格制度と販売力に傾斜した評価基準のためか、店舗規模と店長の年齢・職能資格ひいては賞与が反比例する傾向が見られたくらいである。
それにもかかわらず、「店長育成」のしくみは未だ確立されていない。営業担当役員でさえ1000坪店舗のマネジメントをした経験はないのである。
近時、大手企業を中心として、次代を担う経営幹部の選抜・育成を計画的に行うケースが増えてきたが、小売・流通業では、店長候補の選抜と計画的育成のカリキュラムを早急に確立しなければならない。
◆コミュニケーションスキルの重視と早期育成を
マネジメント能力にはさまざまな知識・スキルが含まれる。計数管理の知識、労基法の知識、商品知識も当然必要である。しかし、今後、店長候補の選抜基準、新任店長の研修テーマとして、より重視すべきは、コミュニケーションのスキルである。さまざまな年齢、契約形態の部下一人ひとりに期待する役割をきちんと説明し、納得させる力、役割の遂行度を公正に評価しアドバイスする、いわばワントゥーワンマネジメント力が現場の店長になければ、繰り返しになるが、年齢も労働観も契約形態も異なる多様な部下のモチベーションを喚起し、競争に勝つことはできない。
◆マネジメント人材登用のための新しい評価基準・処遇制度
そのためには、非正規社員も含めて、個人個人の売上貢献に対しては賞与で精算する一方、今後の管理職にふさわしいコミュニケーション能力をアセスメントし、それこそを昇進の基準とする仕組みを構築することが必要である。近時、ハイパフォーマーの行動基準として「コンピテンシー」を整備し、その評価結果を昇給賞与に反映する仕組みが多くの企業で採用されているが、コンピテンシー本来の、「適材適所」判断材料としての使い方に力を入れるべきである。とりわけ、対人影響力や対人理解力、リーダーシップといった新しいマネジメント人材に期待されるコンピテンシーの評価は店長登用の重要な材料になるだろう。
第12回「サービス業における人事管理上の課題」
コスト削減とCS
サービス業では、商品の機能といった目に見えるものではなく、人が提供するサービスという目に見えないものの質が問われる。その意味で、人材マネジメントは自社の競争優位性の源泉となりうる重要性を持つ。
しかし、デフレ環境の続く中、サービス提供の現場においても競争が激化しており、オペレーションコストの削減に迫られ、非正社員化が他の産業と比べても早い速度で進んでいるのが実状である。
顧客満足(以下、「CS」)は従業員満足(以下、「ES」)から生まれるということはよく言われることである。だが、コストの抑制がES低下を引き起こし、結果としてCS悪化に繋がってしまう危険性があり、各社はコストの抑制と社員のモチベーションを高めるという問題を同時に解決しなければならない状況に追いこまれているのである。
人材の再定義
コストの引き下げと同時に、サービスの低下を招かないためには「モチベーションの高い社員 =
正社員」という図式を見直し、自社にとって付加価値をもたらす人材についての再定義を行う必要がある。
質の高いサービスは、自ら顧客と共感し、考え、行動できる人材から生まれる。つまり、企業が提供しているサービスの本質を理解したり、顧客にとっての優先事項などについて、自ら考え、行動に展開できるような人材に焦点をあて、育成し、活用していくのである。
そういう人材であるならば、正社員・非正社員を問わずコア人材と位置付けられる。そういった人材のやる気を引き出し、成果に結びつける仕組みとしての人事制度を作り上げていくことが求められているのである。
CS評価の導入
では、どうすれば社員にとって納得感のある処遇を実現し、ESとCSとが相互に高まり合うような好循環をもたらす評価制度を整備できるだろうか。
基本的には、第9回でみたように、コストパフォーマンスを意識しながら、期待されるサービスの提供を行動レベルで評価すると共に、各種指標を用いた業績評価を加味していくことになるが、その中に「CS指標」を入れていくことを提案したい。
CS指標を導入することで、企業の持つサービス理念に沿った成果が生まれているかどうかを測定できるが、人事評価の指標としても上司の評価ではなく、お客様の下した評価ということで納得性は高いのである。
導入のポイント
CS評価を人事制度の中に導入していく際のポイントとしては次のようなことが考えられる。
○ 自社の提供するサービスの本質やサービス提供の姿勢などを理解させ、仕事への価値を十分見出せるように会社が支援する体制を作る。
○ 個人での貢献度が測りにくい場合には無理をせず、測定可能なグループ・店舗等の組織レベルで業績の反映という形にして割り切る。
本当の意味でのサービスの質の向上は、個々の社員が自らの仕事と向き合って、なお確かな満足感を得られるときに実現する。企業と個人が「提供するサービスの価値」への共感で新たな関係を結ぶことができるかが企業に問われている。